<大賞>
「ソラモリさんとわたし」
はんだ浩恵(はんだ ひろえ)
小学6年生の美話は、ある日、書きかけの詩を記したメモ帳を落としたことをきっかけに、ふしぎなおとな「ソラモリさん」と出会う。コピーライターのソラモリさんと美話とのあいだで行われる<言葉のレッスン>をとおして、美話は、きちんと使われていなかった自分の「言葉」と向きあい、父親にずっと言えなかった心のわだかまりを伝えるのだった。
2021年3月16日に石井睦美先生、高楼方子先生、山本省三先生、フレーベル館代表取締役社長の4名にて、オンラインによる最終選考会が行われ、大賞1作、優秀賞1作が決定いたしました。
<大賞>
「ソラモリさんとわたし」
はんだ浩恵(はんだ ひろえ)
小学6年生の美話は、ある日、書きかけの詩を記したメモ帳を落としたことをきっかけに、ふしぎなおとな「ソラモリさん」と出会う。コピーライターのソラモリさんと美話とのあいだで行われる<言葉のレッスン>をとおして、美話は、きちんと使われていなかった自分の「言葉」と向きあい、父親にずっと言えなかった心のわだかまりを伝えるのだった。
<優秀賞>
「少年少女は真夏の屋敷で」
髙村 有(たかむら ゆう)
小学校6年生の珠紀には、見つけたいものがあった。それは、ここではないどこかにつながる「扉」。町探検を始めた珠紀は、古い屋敷と蔵を見つけ、心を奪われる。夏休みが始まり、珠紀が幼なじみの晴翔を誘ってその屋敷に行くと、そこには前日たまたま出会った、歴史好きで生意気な少年・蓮がいた。夏休みの間、蓮、晴翔と一緒に古文書探しをするうちに、珠紀は自分の探していた「扉」に気づいていく。
(以上2作品)
隔年開催となり、今年迎えた第3回フレーベル館ものがたり新人賞には、182作品のご応募をいただきました。“今”を生きる子どもたちに向けた、バラエティに富んだ多くの作品をご応募いただけましたこと、心より御礼申し上げます。第一次選考を通過し、第二次選考へ進む15作品を発表いたします。最終選考候補作の発表は2021年1月下旬ごろ、受賞作の発表は3月下旬ごろを予定しております。ご期待ください!
(以上15作品/作品タイトルのみ、五十音順)
2021年1月14日にオンラインによる第二次選考会を行い、最終選考へ進む以下の5作品が決定いたしました。最終選考会は3月中旬予定、受賞作の発表は3月下旬頃を予定しています。どの作品が選ばれるのか、楽しみです。
(以上5作品/作品タイトルのみ、五十音順)
最終選考経過と選評 石井睦美
フレーベル館ものがたり新人賞が、児童文学賞ではなく「ものがたり」賞と銘打たれているのには特別な意味合いがあると思っています。それは、わたしたちの生そのものこそがものがたりであって、それを文章で表現したものが「ものがたり」であり、だれかの「ものがたり」が、第三者の喜びや励ましになる。そうやって、「ものがたり」は書かれつづけ、読まれつづけてきたのではないでしょうか。
その「ものがたり」で重要な役割を果たすのが「かたり」なのだということを、今回の大賞を受賞した「ソラモリさんとわたし」を読みながら感じていました。リズミカルで、主人公の人となりそのままといった清新な語り口は、読み手をすっとその場にひきこむ力がありました。ところが、主人公が引っ込み思案な性格であるらしいことに面くらいました。もちろん人間は複雑だから、物言いや振る舞いがその内面と一致しているとはかぎりませんが、そうであるならそれを納得させなくてはならなかったでしょう。
また主人公以上に、主人公に言葉の大切さを伝えるソラモリさんという大人が魅力的でした。彼女はLGBTですが、大人のドロドロしたものを見せる(書く)必要があったのか疑問が残ります。ともあれ、「ちゃんと言葉を使うことができたら、言葉にできない心がわかるようになる」ことを、最後までぶれずに伝えきっていて、受賞にふさわしいと思いました。
優秀賞の「少年少女は真夏の屋敷で」は3人の少年少女たちの、ぷりぷりとした存在感にこのものがたりのいちばんの魅力があるように思います。児童文学のなかでは年齢と実像とがかみ合わない人物が登場しますが、このものがたりでは、小学6年生が小学6年生として、感じ、考え、行動します。そのひとつひとつに共感できるし、こんな夏休みをすごせたらいいなと憧れもします。舞台となる古い屋敷もまたそれ自体ものがたりを内包していて、実際、3人はそれを見つけ出そうとするのですが、その屋敷のものがたりが不十分だったのが悔やまれました。
◆いしい・むつみ
神奈川県生まれ。作家、翻訳家。2005年~2013年1月まで雑誌「飛ぶ教室」の編集人として活動。『12つきのおくりもの』『みんな、星のかけらから』(以上、フレーべル館)など。
選評 高楼方子
「ソラモリさんとわたし」――冒頭からドライヴ感ある軽快な文章と会話が炸裂し、コピーライターの若い女性と小六の少女という、あまりない二人組の世界が色鮮やかに眼前に開ける。日常を言葉で画像処理し、非日常に高めたような世界だ。しかも剽軽な二人を繋ぐのは「言葉」の追求という真摯な修業。開陳される考察も興味深く、非常に魅力的だった。――が、その日々の意味を、少女が抱えていた悩みを父に打ち明けるための「言葉」獲得の修業だったとする後半の展開は、転調したかのような文章のトーンも含め、マジメだが陳腐で、異彩を放っていた前半の世界にそぐわない気がした。個人的にはそこが残念だったが、力作には違いなかった。
「少年少女は真夏の屋敷で」――最も好ましく、だからこそもったいない作品だった。三人の子が古屋敷で古文書を探すという内容にもわくわくするが、少年二人の個性が秀逸。周囲に惑わされず、それぞれが好きなものに邁進し飄々としていて明るい。そんな人間性が、主人公の少女に影響を与えもする。児童文学特有の香りや輝きのある作品だと思った。けれど物語が深まらずに終わってしまった感は否めない。粘り強く書き込んでほしかった。
◆たかどの・ほうこ
北海道生まれ。絵本、児童書、翻訳、エッセイと幅広く執筆を行う。『わたしたちの帽子』、作絵を手がける「つんつくせんせい」シリーズ(以上、フレーベル館)など。
選評 山本省三
第3回を迎えて、応募作品の質は向上し、どの候補作も読み応えがありました。
そうした中、「ものがたり新人賞」のタイトルにふさわしい新しさを感じさせる作品との出会いを期待したのですが……。受賞を意識してか過去の大賞や既刊の傾向を取り入れ、扱う世界が似通ってしまったものが少なからずあったことが残念でした。 最終選考に残った作品で、この要望に一番合っていたのが「ソラモリさんとわたし」でした。まず、設定が魅力的。母親を亡くした少女と映画宣伝の惹句を考える仕事をしている女性との出会いと別れが描かれているのですが、そのやり取りに思わず引き込まれました。展開も予想がつかず、文体にも勢いがあります。そしてテーマに言葉との格闘が置かれ、文学性も十分。
後半、蛇足と思える部分もありますが、それを踏まえても、受賞には一番ふさわしいと確信できました。
優秀賞の「少年少女は真夏の屋敷で」は主人公たちの「扉」探しがテーマになっているのに惹かれました。その三人の書き分けも成功していますが、まだ序章で、この先があるのではないか、そんな気がしました。
もう一作品、印象に残ったのが「ティッシュボックス」。この年代、この境遇の主人公の気持ちを丁寧に掬い取っていて、筆力を感じました。
◆やまもと・しょうぞう
神奈川県生まれ。日本児童文芸家協会理事長。絵本や童話、パネルシアター、紙芝居の執筆など、幅広く活躍。作絵を手がけた「ゆうれいたんていドロヒュー」シリーズ(フレーベル館)など。