第5回 フレーベル館 ものがたり新人賞
最終選考会は石井睦美先生、高楼方子先生、山本省三先生、フレーベル館取締役の4名にて、2025年3月12日に行われ、大賞1作、優秀賞2作が決定いたしました。
第5回受賞作品
<大賞>
「ぼくたちのコミック・デイズ!」
庭野るう(にわの るう)
中学受験に向け勉強に励む小6の錬磨(れんま)とクラスの人気者の秘(ひめる)の胸熱ストーリー。他者との間に壁を作りクラスで浮いている錬磨、明るいふるまいとは裏腹に心の底でうっすら不安のある秘。少年漫画誌「デコボコミック」がきっかけとなり、秘は錬磨と友だちになろうと働きかけ、いっしょにマンガを制作することになる。生まれ育つ環境も性格も正反対のふたりが、いつしかおたがいを思い合えるように……。ふたりが描くマンガの線は、どこまでも途切れずにのびていく。
ふたりのマンガ線
庭野るう/作
神保賢志/装画・挿絵
※「ぼくたちのコミック・デイズ!」改題
書籍詳細ページ
<優秀賞>
「トリコロールの北斎」
森川かりん(もりかわ かりん)
フランス人と日本人のミックスである中1の優吾(ゆうご)。あるときパリで、版画の摺師である凛(りん)という女性に出会い、浮世絵に心を惹かれる。その後日本に転校した優吾は、周囲からの無意識の偏見に悩む。そんなとき優吾は凛と再会し、クラスメイトの雲良(きら)が凛の息子であることを知る。凛に弟子入りした優吾は雲良と、北斎の「赤富士」の版画制作を始める。雲良もまた両親の離婚に悩んでいたが、優吾の存在に救われる。優吾と雲良、まったく違うふたりは、やがて共同作業で版画を完成させ、お互いを認め合う。優吾は自分を取り巻く世界が優しいことに気づいていた。
<優秀賞>
「ふたつの空」
丹野由起子(たんの ゆきこ)
辻空(つじそら)は素直でまっすぐな性格の女の子。6年の新学期、同姓同名の女の子「辻さん」が転校してくる。辻さんは、親に大切にされていないと思っている。空は、運動会のリレーの練習をきっかけに辻さんとなかよくなる。ある夜、母親が帰宅せず困った辻さんは空の家を訪ね、両親との関係をうちあける。次の日ふたりは、空の母が助産師として働く大木クリニックに行く。辻さんを迎えにきた母親の顔を見た大木医師の昔話から、辻さんは自分が生まれたときから大切にされていたと知る。空は、辻さんも生まれた日の空が特別だったことから名づけられたとわかり、うれしくなった。
(以上3作品)
最終選考経過と選評 石井睦美
「フレーベル館ものがたり新人賞」のなかにある「ものがたり」と「新人」というふたつの言葉。選考委員はこの言葉を頭に置いて作品と向き合っています。「ものがたり」としての面白さ、完成度。「新人」の持つ清新さ。「語り」も重要な要素です。「語り」がなければ「ものがたり」は成立しないし、なによりそれは作者の個性でもあるからです。
大賞作品の「ぼくたちのコミック・デイズ」では、性格も境遇も違う同級生の少年がふたりでひとつの目標を持ったことから起こるできごとがいきいきと描かれていました。心躍る時間、辛い思い、気もちの行き違い。それらを通して彼等は友情を育み、精神的にも成長していきます。けれど、作品はふたりの成長だけにとどまりません。彼等の成長が周囲も変化させるのです。クラスメイトの少女、大人たち、それぞれ人物がきちんと描かれていたこと、生活の細部の描写が丁寧だったことも作品を豊かにしていたと思います。
優秀賞の「ふたつの空」は、同じ空という名前を持つ少女の友情物語であると同時に、母と娘の物語でもあります。「ふたりの空」でなく「ふたつの空」というタイトルにこめた作者の思いが胸に響きます。主人公・空の健やかさ、もうひとりの空の屈託。恵まれているいないに関わらず、まだ素手で人生を生きるほかないふたりの少女が細やかに描かれています。作りこみすぎない文章も作品と調和していました。
もう一作の優秀賞である「トリコロールの北斎」もふたりの少年の友情を描いています。アフリカ系フランス人の父と日本人の母を持つ、どちらの国でもマイノリティである少年のこころを捉えたのが北斎の版画という設定と、人物造形にこの物語の強みがあるでしょうか。清新さという点では三作のなかで頭ひとつ抜けていたかもしれません。ただ、人称が揺らいでいたり、文章の粗さが気になったりと、もうひとつ物語のなかにはいっていけないもどかしさがありました。
◆いしい・むつみ
神奈川県生まれ。作家、翻訳家。作品に『12つきのおくりもの』『みんな、星のかけらから』(以上、フレーべル館)『100年たったら』『カフェ・スノードーム』(以上、アリス館)など。
選評 高楼方子
「ぼくたちのコミック・デイズ!」——誰とも打ち解けない秀才の少年と勉強は不得手だが人気者の少年が漫画を介して徐々に親しくなり、二人で描いた作品が入選までするという痛快な話だが、端正な文章、細部への目配り、バランスのよい構成や展開など、完成度の高い作品だった。粗忽なはずの少年が言動に慎重なうえ説教臭いといった難点はあったが、面白い児童文学を堪能した感じがし、大賞に推したいと思った。
「ふたつの空」——とても感じのいい作品だった。田舎町らしい地元の空気が漂う中、子供たちが懸命に日常を生きている感じが伝わってくる。主役の「空」と、屈託を抱えたもう一人の「空」、そして助産師である母親や女医さんなど脇役の存在もよかった。
「トリコロールの北斎」——父がアフリカ系フランス人という転校生の複雑な内面がよく表現されていた。夏休み、版画の摺師を母親にもつ少年と友人になっていく時の雰囲気がよかった。大賞作と構えが重なっていたのは不運だったが、本作の場合、手仕事の具体性や魅力が伝わらないこと、全体に粗いことなど問題点が多かった。
「Secret Baseを探して」——母親の不倫に苦悩する少女が、少年と家出するシーンは秀逸だったが、彼らの深刻さと母親の軽さが釣り合わず、不安定な作品だった。
「たゆたう」——学校では疎んじられている子が暮らすお祖母さんの家の静謐感がよかった。
◆たかどの・ほうこ
北海道生まれ。絵本、児童書、翻訳、エッセイと幅広く執筆を行う。『わたしたちの帽子』、『おともださにナリマ小』(以上、フレーベル館)、『わたし、パリにいったの』(のら書店)など。
選評 山本省三
五篇の最終候補作が全てリアルで、しかも中心人物二人の関係を描いた作品。さらに二篇は主人公二人の名前が同じという設定。残る三篇は一緒に芸術作品を仕上げる過程の物語だったことに驚いた。
「たゆたう」はスイカ、ドッジボール、ヘアオイルなど小道具の使い方が効果的。特に転校生とその祖母のキャラクターがユニークで面白かった。
「Secret baseを探して」は高速バスでの逃避行が瑞々しく描かれ、主人公たちの息づかいが感じられて、心に響いた。
「ふたつの空」は人物配置、構成が新人とは思えぬうまさを感じさせる。特に母親の勤め先の産院の院長が作品の要となっていて頼もしい。
「トリコロールと北斎」は一方の主人公の設定がグローバル。そこに北斎を絡めたチャレンジ精神を買いたい。
大賞受賞作の「ぼくたちのコミック・デイズ!」の主人公二人には様々な格差が存在する。それを漫画を描くことを通じて乗り越え、友情を育んでいく姿が清々しく、ある意味王道的ストーリーだが、その読後感の良さは抜群。想定される読者層にも、受け入れられやすい内容だ。
今回はどの作品も読み応えがあり、力作揃いだった。とても喜ばしく思う。
◆やまもと・しょうぞう
神奈川県生まれ。日本児童文芸家協会理事長。作品に「ゆうれいたんていドロヒュー」シリーズ(フレーベル館)、「動物ふしぎ発見」シリーズ(くもん出版)、『藤井聡太ものがたり』(世界文化社)など