<大賞>
「ハロー・マイ・フレンド」
村上雅郁(むらかみ まさふみ)
周囲に心を閉ざす倉木小夜子のたったひとりの友だちは、ほかの人には見えない黒猫。そんな小夜子のまえに転校生の三橋明來(あくる)が現れ、しつこくつきまとわれるようになる。小夜子と黒猫は警戒するが、明來はおどろくほど早くクラスに溶け込み人気者となった。そしてふたりは彼女の秘密を知ることになる。
最終選考会は石井睦美先生、高楼方子先生、山本省三先生、フレーベル館代表取締役社長の4名にて、2019年3月11日に行われ、大賞1作、優秀賞2作が決定いたしました。
<大賞>
「ハロー・マイ・フレンド」
村上雅郁(むらかみ まさふみ)
周囲に心を閉ざす倉木小夜子のたったひとりの友だちは、ほかの人には見えない黒猫。そんな小夜子のまえに転校生の三橋明來(あくる)が現れ、しつこくつきまとわれるようになる。小夜子と黒猫は警戒するが、明來はおどろくほど早くクラスに溶け込み人気者となった。そしてふたりは彼女の秘密を知ることになる。
<優秀賞>
「けんか餅」
桐生 環(きりゅう たまき)
ときは江戸時代。菓子司の大店『鶴亀屋』の跡取りで、喧嘩っぱやい若旦那と、鶴亀屋に奉公しながら菓子職人を目指す少年・豆吉。若旦那の喧嘩騒ぎでふたりそろって店を追い出され、主従ふたりきりの小さな菓子屋をはじめるが、またも若旦那が大福の皮の厚さをめぐって大騒ぎ。喧嘩を落着させたのは、豆吉の作った習作の餅、名づけて「けんか餅」だった。
<優秀賞>
「サマークエスト~はじまりの夏」
北山千尋(きたやま ちひろ)
小学校六年生の田辺ヒロキは、十年前に父親に先立たれ、弁当屋を営む母親とふたりで暮らしている。ふとしたことから父親の昔の写真を見つけたヒロキは、たったひとりで父が死んだ海を見にいくことを決意する。なぜ父親はこの海へ入っていったのか。心のなかのわだかまりに決着をつけるために、ヒロキがいどんだサマークエスト。
(以上3作品)
第2回フレーベル館ものがたり新人賞には、125作品のご応募をいただきました。子どもたちの「知」と「感性」を育む、フレッシュでバラエティに富んだ作品が多く集まりましたこと、心より御礼申し上げます。第一次選考を通過し、第二次選考へ進む15作品を発表いたします。最終選考候補作の発表は2019年1月下旬ごろ、受賞作の発表は3月下旬ごろを予定しております。ご期待ください!
(以上15作品/作品タイトルのみ、五十音順)
最終選考へ進む5作品のタイトルを発表いたします。次回、受賞作の発表は3月下旬頃を予定しています。どの作品が受賞するのか、楽しみです。
(以上5作品/作品タイトルのみ、五十音順)
最終選考経過と選評 高楼方子
最終候補の5作中4作が一人称によるYA作品でした。(その事自体はいいのですが)一人称で書くことの陥穽(かんせい)は、描写よりも、屈託や思いの吐露になりがちなこと、他者を描く手段が会話に頼りがちなこと、そしてなぜか、「物語」としての豊かさ、楽しさよりも、「問題」と「その克服」に重点が置かれがちになることかもしれません。そこが全体に、ちょっと残念でした。
右のことは「ハロー・マイ・フレンド」にも当てはまるのですが、この作品の場合は、二人が交互に語りを担うため、それぞれの思惑を知らされる立体的な緊迫感があったこと、そしてそれ以上に、一文一文が質量のある言葉で綴られ、ハッとする表現も多く見られたことに、筆力やオリジナリティーを強く感じたのです。文章を読む喜びを味わえるものでした。内容についても、それぞれの形で自己を鎧った孤独な少女二人の稀有な出会いというテーマや、一人の少女の想像上の友人である黒猫の描き方とその去就など、おおむね、よく考えられていましたが、さらに良くなるはずという期待のもと、全員一致で大賞に推しました。
「けんか餅」は、息の長いリズミカルな文章といい丁々発止の掛け合いといい描写といいプロットといい、完成度抜群でした。主人公の少年より大人たちの方が生き生きしていたとはいえ、作品の価値が下がるわけではないでしょう。ただ、児童書としてどうかという以前に、気風のいい江戸っ子ものというパターンに則った手練れの小説を読んだような既視感を覚え、新しい物語に会った驚きには至らなかったのです。(文句なしに面白い作品に対し、こんなことを言うのはイチャモンなのかもしれませんが)
「サマークエスト」は、〈父〉の死の真実に迫るという最終的なテーマに向かって、始まりから様々の工夫と含みを持たせた、組み立ての巧みな作品で、そこに梳きこむ形で、友人や周囲の人々を描いていったのは、良かったと思います。でも、不自然な点が散見されたのが気になりました。
◆たかどの・ほうこ
北海道生まれ。絵本、児童書、翻訳、エッセイと幅広く執筆を行う。『わたしたちの帽子』、作絵を手がける「つんつくせんせい」シリーズ(以上、フレーベル館)など。
選評 山本省三
二回目の今回、どの作品を大賞に推すか迷いました。
まず「けんか餅」について。全体的に落語のような雰囲気で結末もすっきりしています。ただ読んでいて若旦那に気持ちが寄ってしまい、主人公である豆吉の物語ではなく思えてしまうのです。この時代に生きる少年の、そして丁稚という境遇で起こる理不尽さをもっと描いていたら、すぐれた児童文学になりえたのに、そこが残念でした。
「サマークエスト」ですが、父親の死の謎解き、親友との葛藤、母親の恋と題材も揃っていて、読みやすく、感動も覚えました。ただし、主人公が親友になぜあれほどの依頼心を持つのかが引っかかりました。また大人たちが父親の死を乗り越えていないで、それを子どもに押し付けていることも気になりました。
「ハロー・マイ・フレンド」は、文章に勢いがあり、設定も抜群に面白く、小夜子と明來の二つの視点からの物語の進行にはわくわくしました。ところが、明來が小夜子の秘密に触れたあたりから、急にほころびが目立ち始めるのです。結末も腑に落ちません。しかしながらそれでも作品の魅力は前述の二作を上回っていました。推敲を重ね、読み応えのある物語に仕上がることを期待しています。
◆やまもと・しょうぞう
神奈川県生まれ。日本児童文芸家協会理事長。絵本や童話、パネルシアター、紙芝居の執筆など、幅広く活躍。作絵を手がけた「ゆうれいたんていドロヒュー」シリーズ(フレーベル館)など。
選評 石井睦美
大賞の「ハロー・マイ・フレンド」は、孤独な心を持つふたりの少女が友達になるまでの物語だ。今を生きる少女たちの言葉で、その日々が、心のうちが、さわれるように描かれていて、魅力的だ。ふたりに交互に語らせることで、物語に厚みが出て、インナーフレンドである猫の存在や、触れただけで他者のこころが読めるという設定も、無理なく受け取れた。最後、猫は消滅するのかと思いきや、そうではなかった。ここは賛否のあるところだろうが、個人的にはその結末も好ましく思った。
優秀賞の「けんか餅」は落語を聴くように読んだ。語りなくして物語は成立しないが、ここにはそれがある。ただあまりにも落語的であるため、新味がない感じはぬぐえなかった。ともあれ、ひとの生きざまを、重く生真面目に書くのではなく、熱く、軽みを持たせて描き切ったのは粋だと思った。若旦那の三十歳という年齢設定、さらにこの物語の主役は誰なのか、その疑問は最後まで残った。
「サマークエスト」は父の死の真相を知ろうとする少年の真っ直ぐな心情が描かれている。彼を慮って、大人たちは彼の父の死を語ろうとしないのだろうが、この少年の必死さに大人が大人として応えていないように思ったのは、そこが書き切れていなかったからか。一方、少年の親友の存在はしっかりと描かれていて、この物語を支えていたように感じた。
◆いしい・むつみ
神奈川県生まれ。作家、翻訳家。2005年~2013年1月まで雑誌「飛ぶ教室」の編集人として活動。『12つきのおくりもの』『みんな、星のかけらから』(以上、フレーべル館)など。